2005年7月12日 (火)

ブダペストの侍

abe-samurai.jpg 今でも新生児の半数に蒙古斑が見られるというハンガリーは、東西の文化が混在する魅力的な国だ。
そうしたマジャル人を相手に13年間武道を教授しているのが剣道錬士七段の阿部哲史(40)だ。

「今のハンガリー人にアジア人の痕跡を期待するのは難しい。ただ、剣道では西欧人が嫌がる反復練習を一途にやり続けるひたむきさや勝負を最後まで諦めない粘りを持っている。」
忍耐や我慢強さを善とする日本人にも通ずるメンタリティーだ。

大学時代、西独で欧州人に剣道を指導した際、日本の伝統文化である剣道が本来の道とは違った形で流布していることに危機感を抱いた。
いずれは剣道未開の地で本物を普及させたいと思っていた。
そのため大学院では武道論を専攻。
理論武装し満を持してハンガリーにやってきた。

だが、現実はそう甘くなかった。

「用具がないのは覚悟していた。それよりも社会主義体制から脱却してたったの1年半。生活自体が大変で手配済みのアパートさえなかった。招聘先だったハンガリー剣道連盟は名ばかりの組織で150名いると聞いたメンバーのほとんどが幽霊会員。騙されたと感じすぐ帰国しようと思った」。

結局、一時帰国するもハンガリーの地方大学から教員として声がかかり舞い戻ることに。
「騎馬民族マジャルは弓矢と剣に親しみと誇りを持っている。剣道そのものを遊びと捉える人はいない。世界を相手に好きな剣道を通して面白い人生を切り開いてみたいと思った

本物の武道人は真面目一点張りではなくどこか粋を感じさせるものだ。
「若い頃からよく学び、よく遊んでいた」と大学院時代からの知己である中村充(39)は証言する。

街を歩けば教え子と自然に会話が弾む。
ブダの街中で偶然にも欧州女王のバルバラ・キラーイ(21)に会った。
阿部が子供の頃から指導してきた選手だ。

阿部先生と稽古すると、私はすごく強くなったように感じます。いい部分を十分に引き出してくれ、悪いところを注意してくれます。普段はあんまり褒めてはくれませんが」。

基本の修得がその後の成長へ大きな影響を及ぼす剣道。
基礎を徹底的に叩き込むのが阿部流だ。
本職は短大教員なので、100名在籍する自クラブを指導するのは週に2〜3回。

「以前、『日本製品はすごいが日本人は尊敬しない』と言われ、外国人から尊敬される日本人になりたいと思った。人間対人間、生の触れ合いを基本とする武道は、素顔の日本人を理解してもらう最高の機会。」(阿部)
将来の夢は、ハンガリー武道文化センターを設立し、武道を人々に広く知らしめることだ。
箱物や金銭の援助だけでなくこうした日本の文化を紹介していくことが今の日本には必要だ。


毎日新聞7月8日付朝刊スポーツ面掲載を一部修正

【写真:ドナウ川をバックに】


by 鈴木大地 | 18:28:37 | カテゴリー:person
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